誰だってこんな状況を望んでいるわけじゃない。ケンカなど誰が好き好んでするものか。
 いつだって心を寄り添っていたい、とそう思っている。
 この二人だって例外ではない。けれども心の中で何かがソレを食い止める。
 それは、ほんの小さな、いやそれこそどうでも良いような事。
 そんな些細な事であったとしても、穏やかな波が突然荒ぶるものへと変化するように、突如荒波を立てるのだ。
「俺の方が上だっ」
「違げえ、俺だ!」
 松山と日向の間に激しい火花が散る。
 何が原因でこんな状況になったのか…きっと当の本人だってよくわかっていないだろう。
 松山が痺れを切らしたように大きく息を吐き、そして大きく息を吸い込む。
 次の一手でこの諍いを終わらせるつもりだった。
 次の攻撃――それはこの諍いを手っ取り早く終わらせる唯一無二の攻撃だ。
 これを出されて日向が勝利した例がないといっても過言ではない。事実、日向は何度もこの攻撃で敗北を期しているのだ。今日も白旗を上げる確率は非常に高い。
 松山は、ぐっと戦闘態勢を敷き、
「だから!!」
 日向から視線をそらさずに、
「―――って言ってんだろうがっ!」
 と、声の限り叫んだ。するとこちらの予想通り、日向の身体が大きく揺らぐ。
 今回も相当な効果はあったようだ。
「てめぇの方が上だっつんなら、何か言い返してみろよ!」
 明らかに画面真っ赤瀕死状態の日向に、追い打ちとばかりの松山の挑発的な声が響く。日向が反射的に顔をあげた。が、言い返すそぶりは見えない。先ほどの松山の攻撃が見た目以上のダメージを与えているのは、誰の目にでも明らかだった。
 松山はニヤリと笑い、確信した。
 今日も勝ったと。
「っ、うるせぇ、黙れ!これで……これでてめぇが勝ったと思ったら大間違いだ!」
 ふらふらになりながらも日向は反撃を始めた。ぎりりとまなじりを吊りあげ、きつく睨む。
 たとえ地にひれ伏したとしても二日続けて同じ相手に負けるなど、この男のプライドが許さないのだ。
「負け犬の遠吠えにしか聞こえねーんだよ!いい加減認めろ!俺はお前よりも──、」
「黙れっつってんだろうが!泣かすぞ!」
「やってみやがれっ、日向!」





「ねえ、あの二人バカなの?バカなの?」
 松山と日向のやり取りを遠くから傍観していた反町が冷たい口調で呟く。
 ケンカなどいつもの事。
 それはとても見慣れた風景。
 慣れすぎて耐性がつきまくっている。…はずなのだがチームの、しかも主力選手の愁嘆場を毎日見せつけられていたら、さすがにツッコミの一つぐらいは入れたくなる。
「毎日毎日さ。どっちでもいいじゃん、そんなの。俺らじゃ絶対ケンカにならないよ」
「…あの二人にとっちゃあ大事なんだろう」
 なんせバカだから、とぽつりと呟く若島津の髪を、慰めるように風がさらっていく。

 どっちがより相手を好きかで争うなんて、ふたりきりの時にやりやがれ。

 血を吐くような叫びをそっと胸に仕舞い込み、二人は同時に海より深い溜息を吐いた。
 

フィールドの中心で愛を叫ぶ

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