こんなの、俺じゃない。
例えば。
「しかしよく食うよなあ、お前」
俺より小せぇくせに、と呆れ果てた口調ながらもどこか優しげな声とか。
「あーあ、ほっぺたにメシ粒つけてんじゃねーよ」
ガキじゃねーんだから、と俺の頬を優しく拭う指とか。
「つーか、そんだけ食べてくれると作りがいがあるよな」
と、他人には見せたことがないんじゃないかと思いたくなるくらいの優しげな眼差しで見つめてくる瞳とか。
「…」
俺相手にそんな態度をとるんじゃねーよ。
猛虎の名が廃るぞ、日向よ。
「ん?どうした?」
「別に」
出来るだけ冷静を装って、目の前のごちそう(日向の手作り)をかきこむことに専念する。
…これ以上調子狂わされてたまるかってんだ。
「松山」
「!」
不意に手が伸びてきて。
咄嗟の出来事に払いのける事も出来ず、そのままその手が俺の目尻を掠った。
「睫毛ついてた」
「あ、そ」
「…期待外れ?」
「…は?」
「目なんか瞑って、キスするとでも思った?」
「……んなわけあるかァァ!」
俺の目の前でひらひらと翳されたままの指にがぶりと噛み付く。
「ってェ!!テメ、コレ歯形…っ」
「ふん、ざまぁみろ」
ムカつく…。
マジでムカつく!
こんなの俺じゃねえ。
その声に、その眼差しに、その温もりに。
触れただけで、じんわりと身体に染みいって。
永遠にこの時間が続くんじゃないかって思っちまう俺がイヤなんだ。
たったそれだけで、じんわりとふるえてじんわりと『好き』が溢れだしそうになる俺の心がイヤなんだ。
こんなの、俺じゃねーじゃん。
対等でいたいと思っていたはずなのに与えられるだけで満足してるなんて、まったくもって俺らしくねー。
俺だけ狂わされてるみたいで、俺だけ首ったけみたいじゃねーか。
俺だってもっと狂わしてみたいんだよ。
「てめー覚えてろよ」
「もう忘れた」
「…可愛くねぇ」
だから、そんな慈愛の籠った眼差しで俺を見るな。
これ以上俺を狂わせるな。
貴方にくびったけ