口移しなんて当たり前

「また舐めてんのか?」
「ん」
 恋人に素っ気ない返事をしながら、口の中でコロコロと飴を転がす。
 その度に広がる甘い味に反町は上機嫌。


 コロコロ。
 コロコロ。
 小さくなるまで。
 コロコロ。
 コロコロ。
 溶けて無くなるまで。
 転がし続けて、甘い味を堪能する。


 飴が消えて無くなると、反町は新しい飴の包装紙をビリリと破く。
 幸せそうな笑みを浮かべ、パクリと口に放り込む。
 ニコニコ笑いながら。
 また飴を口の中で転がし始める。


 その様子は。
 本当に美味しそうで。
 甘いモノが好きではない者でも。
 食べたくなる。



「なあ」
「なあに?」
「俺にも一つ」
 頂戴と手を差し出す若島津に。
「これでラスト」
 反町はくすりと小さく笑いながら、自分の口を指差す。
 無いと言われると欲しくなるのが人間の性。
 若島津はぐいっと恋人を引き寄せると、おもむろに口付けた。



「ん……んん」
 するりと舌を滑り込ませると、甘い声が洩れる。
 反町の飴が。
 絡まる舌を経由して。
 若島津の口の中へ。
「……甘いな」
 若島津は眉を顰めながら、飴をコロリと転がす。
「そりゃ、イチゴ味だもん」
 飴を盗られてぷうっと頬を膨ませる恋人に、若島津はまた口付ける。
 今度は、
 若島津の飴が。
 舌を経由して。
 コロリと。
 反町の口の中に飛び込む。
「ん、おいし」
 帰ってきた飴をまたコロコロと転がす。
 消えて無くなるまで。
 コロコロと。


「ねえ」
「何だ?」
「口移しがしたかっただけでしょ?」
「バレたか」
「バレバレ」


 また飴を買ってこよう。
 甘い甘いキスが貰えるから。
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