栄養補給の手段は…

 すやすやと健やかな寝息を立てる彼を見付けて、思わず心臓が高鳴った。

 陽が傾き始めた寮の一室。
 いつもは張り詰めた空気を身に纏っている彼は、部屋の隅に備え付けられたベッドに身を預け、穏やかな寝顔を晒していて。ベッドの脇の窓から、柔らかいオレンジ色の光が差し込み彼の半身を照らし出していた。
 見慣れたはずの寝姿なのに、何故か新鮮に思えて。
 扉を後ろ手に閉めると反町は小さく微笑む。

 きっとみんなは知らない。
 きっと自分しか知らない。
 怖い顔してゴールを守る、この男が、こんな優しい顔して寝るなんて。

 ほんの少しの優越感が、反町の胸をくすぐる。
 近付いて間近に捉えた若島津の寝顔。
 穏やかすぎる寝顔に反町は一つ悪戯を思い付いてニヤリと笑った。
 成功しないと思うけど。
 そろそろと手を伸ばすと、微かに呼吸を繰り返す唇と鼻を塞いだ。
 穏やかな寝顔に、ぎゅっと眉根に縦皺が刻まれる。
 彼が呼吸を堰き止める手を掴むと、反町は驚いたように瞳を見開く男の胸に身体を預けた。
「ははっ、起きた」
「……お前な」
 若島津はその身体を抱き留めたまま、小さく吐息を洩らす。
「ったく、たちの悪い」
「悪意は無いからね、一応」
 一瞬の窒息のせいで些か疲れた表情を見せる彼に、反町は悪戯っ子のような笑みを浮かべると、少し汗で滲んだ額に唇を寄せた。
「夕食の時間だから、起こしに来たんだ」
「じゃあ、普通に起こせよ」
「成功すると思ってなかったんだよ」
 気配に敏感な奴だから。そう思っていたのに。
 そう言ってやれば、若島津は苦笑を滲ませ、反町の頭をかき抱く。
「もう…何?」
「小賢しい真似しやがって」
「たまにはいーじゃん」
「先にお前を喰ってやる」
 脇の下に差し込まれた手が、ふわりと身体を持ち上げて、反町はぎょっと表情を強張らせる。
 見つめた視線の先に、薄く微笑んだ男が首筋に唇を寄せる。
「え?本気?」
「ああ」
「ちょっと夕飯は!?」
「その為の栄養補給」
 何だよそれ、と彼の台詞に膝立ちで跨ったまま、反町は小さく項垂れた。いつの間にか服の裾から侵入した若島津の掌が、背骨に沿うように撫で上げていく。
 寝起きにも関わらず、的確な快感を与える彼に反町は堪らず熱い吐息を洩らした。
「仕方ないなあ、さっさと終わらせてよね」
 お前次第だな、と意地悪く笑みを浮かべる彼に。
 反町は覆い被さると、煽るように唇に噛み付いた。

 あとはシーツの波に溺れるだけ。
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