寒い夜に

 ああ、俺ってホントに愛されちゃってるよね。

「寒い…」
 そう小さく呟くと、ちゅっと頬に柔らかい感触。
 さっきから俺が寒いと言う度に、この男はこうやって暖かいキスをくれる。

 炬燵に身体の半分以上突っ込んで、尚且つ男に背を預けているから、寒いなんてことはない。
 とても暖かいのだけれども。
 絶えずその唇が欲しくなって、つい、寒いと言ってしまう。

「健ちゃん…寒い」
「……何だったらベッドの上で汗だくになるまで暖めてやろーか?」
「…遠慮します」
 そんなくだらない会話を繰り返しつつも、男の唇は俺の頬や額、鼻先など至る所に落とされる。

「寒い、超寒い」
 嘘。寒くなんかない。
 暖かくて、優しくて、心地いい。
「別に寒くないだろーが」
 後ろから抱き締められ、頬に吐息がかかる程の至近距離で喋るから、少しくすぐったくて頬が緩む。
「俺は寒いんだよ」
 そう言いながら、身体を少し後ろに捻って、男の首に腕を回して顔を寄せる。
 暖かくて、そして男の匂いがして。
 落ち着く。とても、とても。

 顔を上げてみれば優しく微笑む、キレイな顔があって。
 つられて俺の目元が下がり口元は綻んだ。
 すると男は垂れた目尻に優しいキスをくれて、俺もお返しにと頬に一つキスを贈る。
 すれば視線が絡んで、自然と唇が重なる。何度も何度も角度を変えて、触れ合わせる。

 本当はね。
 お前と触れ合っているだけで溶けてしまいそうなほど、熱いんだ。
 お前はそれを知っていて、それでも俺に暖かい唇をくれるんだから。

 ホント、俺ってば愛されちゃってるよね。
inserted by FC2 system