人はそれを愛と呼ぶ04
男は押し黙ったまま、俺を見つめ続ける。
もういいだろ?充分すぎる答えをあげただろう?探るような視線から、俺は目を逸らした。
その刹那。男の身体が動いた。ついでに俺の身体も。気付けばベッドに縫いとめられ、いつの間にか若島津に見下ろされていた。
その瞳には殺気……いや、怒気が篭められていて。サッカー以外では初めて見る顔だった。
「お前は…何で俺がお前を抱くと思ってたんだ?」
「は…?」
いきなりの質問で頭が混乱しかけた。俺はどうにか頭を働かせて言葉を紡いだ。
「それは…」
欲を吐き出す為だろ?でも、最後まで言えなかった。
「人の気持ちも知ろうとせずに、自己完結してんじゃねえよ」
俺の言葉に被せた奴の言葉の意味が分からない。お前の気持ち?何だよ、それ。
「やっつけ仕事に、一人の人間を抱き続けるなんて事、しねえよ。誤解されたくないし、第一、そのために男なんて抱くか」
何が言いたいの?分かんねえよ。
「口にしなかった俺にも責任はあるかもしれない。でも…俺はお前との行為をやっつけ仕事なんて思ったこと…一度もねえよ」
そう言うと、男は悲しげに顔を歪めた。
若島津の言葉が俺の脳内でうまく変換できない。
やっつけ仕事に、一人の人間を抱き続けることはしないと言った。
そんなことの為に、男は抱かないと言った。
俺との行為を、やっつけ仕事だと思っていないと言った。
じゃあ、それって……?
「…何で俺が服を脱がなかったと思う?」
ぼーっと見上げる俺に、若島津が静かに問う。
「俺が脱がそうとする度に言ったよな、お前…『この方が気分が出る』って」
言ってた。確かに言ってた。……まさか。
「俺はそれに合わせてただけだ」
マジかよ。力が抜ける。
「じゃ、じゃあ、あの冷えた表情は何だよ!?」
「冷えた表情?」
「そうだよっ、お前、ずーっと冷えた顔して、俺の事抱いてんだぞっ!」
「生まれつきだ、元々感情が出にくいタチなんだよ、俺は」
何だよ、それはよう。
「でも、お前が『やっつけ仕事』なんて思ってるなんてな…どうでもいい相手と俺がヤってるなんて思ってた訳だろ?正直ショックだな」
そう言って悲壮感を漂わせる、この男はずるいと思う。
まるで俺が悪いみたいじゃん。
「分かりにくいよ、お前…そう思われても、仕方ないじゃん」
そうかもなと、口元だけで若島津は笑うと、俺の衣服に手を掛けた。
「ちょっ…何っ!?」
「何って……するんだよ、愛あるセックス」
分かりにくいよ、お前。マジでさ。
衣服を纏わない肌は、どんな熱を与えてくれるの?
冷えたお前の肌に、俺の体温は移るの?
でも、ゆっくりと服を脱がしていく若島津の手を振り払わない俺は、もうすぐこの答えに辿り着ける。
衣服を纏わない俺の肌に、若島津の素肌が触れて。
冷えた肌が徐々に熱を帯びて。
触れた熱い肌が『愛してる』と叫んでた。
幾度となく繰り返された行為の中で、初めてする愛あるセックス。
人はこれを愛と呼ぶんだ、きっと。