好きと言って
身長が1cm伸びたと言えば、俺は2cm伸びたと返ってきた。
シュート連で調子が良かったと言えば、俺の方が調子が良いと返ってきた。
嫌いだとふざけて言えば、大嫌いだと本気で返ってきた。
でも。
好きだと言っても、大好きだと返ってきたことは一度もない。
2cm伸びていたとしても、俺より小さいし(キスする時は必ず見下ろすから)。
シュート連で調子が良くても、俺の方がゴールを決める確率は高いし(俺はFWだし。アイツが調子良いのはチームにとってはとても良い事だが)。
正直、大嫌いはヘコむ。売り言葉に買い言葉だと分かっているけど。
好きだと言ったら、大好きだと返してこいよ。俺が好きだと言っても、ぷいっと横を向くだけ。赤くなった耳を見れば、同じ気持ちなのは分かるけれど。
たまには好きだと言ってくれてもいいじゃねーか。
好きだと言わせたくて、何度も何度も好きだと言ってみた。
「うざい」
「うるさい」
「一回言やあ分かる」
いやいや、そーじゃなくて。
好きだと言ってるんだ。俺が欲しいのはたった一言。
尚も言い続けると最終的にはしつこいとグーで殴られた。
それでも諦め切れなくて。
言い続けていたら、唇を塞がれた。突然の出来事に瞳を見開いた為、目の前の現状を見つめざるを得ない。
艶やかな髪の隙間から覗く長い睫毛が落とした影と、朱に染められた目元。
ようやくキスされているのだと悟ると、慌てて押し退けた。些か呆然とする俺に、アイツはコレでイイだろとニヤッと笑った。
好きと言えねーくせにキスは出来るのか、てめーは。
俺が欲しいのはキスでもなく好きの一言。
でも。
まあいいか、と幸せな気分で松山を抱き締めた。