LOVE
「よう」
声を掛けられて振り向く。
そこにあったのはガキんときから何一つ変わらない笑顔。
その笑顔を見るのは実に一年ぶりだった。代表に召集されても、プライベートで帰国しても、すれ違いで一度も会えなかった。久しぶりとやけにフレンドリーな態度で手を振る松山の手首に見慣れない高価な腕時計を見つけた。
…そーいやあ、婚約したんだっけ。
松山の趣味ではないソレは結納返しの品なんだろう、きっと。
「らしくねえな、ソレ」
「っるせえな」
似合わないと揶揄する俺に怒鳴りながら返す松山。
いつものように。
「で、てめーは?」
「うまくいってる」
ニヤニヤしながら彼女の事を聞いてくる松山にサラッとかわす俺。
いつものように。
俺たちはいつからかケンカしなくなった。昔は会うたびに取っ組み合いのケンカをしていたはずなのに。大人になった、ということだろうか。
取り留めのない会話を続ける、この状況に少し戸惑いを感じる。
俺たちの関係は同じ夢を目指す仲間で。
でも。
互いに口には出さないけど、それ以上になれた関係。
口には出さない、出すつもりもない。
それなのに。
俺の知らないところで少しづつ変わっていく松山に。
ホンの少し、胸が苦しい。
恋人になりたいとかそんな風に思った事はなかった。
ただ、バカみてーにくだらねえことでケンカしたり、くだらねえ勝負したりするのが。
好きだった。
友情とか恋愛とかじゃなくて『特別』なんだと思う。
恋人にならなくても『特別』なままでいられる。
そんな気がしたから、お互い口には出さなかったんだろう。
今更、口にして松山の婚約者を泣かすのも間違っている。俺の気の強い彼女を怒らせるのも間違っている。
このままでいい。それでいい。
例え離れていても同じ夢を抱き続ける限り。
俺たちは繋がっていけるのだから。
「おめでとう」
「ありがとう」
素直に口から出た俺の言葉に、松山は日向らしくねえとか何とか言いながら、照れ臭そうに、でも幸せそうに笑った。
俺たちは仲間で。
でもそれ以上になれた関係。
松山は『特別』なヒト。
いつまでも。
それも一つの愛なんだろう。