甘やかし

「ねえ、しよ?」
 寝ようと思ってベッドに寝転がったら、いきなりどさっと人の上に乗ってきた。
 何、考えていやがるんだこいつは。
 わかっていてもムカつくから、目を閉じたまま俺は答える。
「何だよ、急に」
「急にしたくなったんだもん、仕方ないじゃん。と言うわけでしよ」
「断る」
「は?」
 まさか俺が断るなんて思ってもいなかったのだろう。
 ちらりそちらを見れば不服そうに頬を膨らませているが、誰が絆されるか。
「お前、俺がこの前したいって言ったらヤダって言って追い返したじゃねーか。だから断る」
「俺、そんなの覚えてないもん」
「覚えてなくても言ったんだよ。というわけで自分のベッドへ帰れ」
「もしかしてそのことで怒ってんの?もうヤダって言わないからさ、機嫌直してよ」
「うるさい、俺は寝るんだッ!」
 都合のいい時だけ甘い声を出す恋人にむかついて思い切り睨んでやったら、反町は一瞬呆気にとられたような顔をして、一気に不機嫌面になった。
 意地悪かもしれない。けれども今日は絶対に絆されてなんかやらない。毎回毎回言うことなんか聞いてやれるか。ただでさえ疲れてるんだ。さっさと寝かしてほしい。
「…じゃ、もういい」
 反町が表情と寸分違わぬ声でそう呟くと、いきなり首筋に吸い付いてきた。
「ちょ!お前、何やってんだ!?」
「何って、お前寝るんだろ?だから勝手にするんだよ」
 そう言いながら反町の手があちこちに侵入してきた。
 …マズイ。コイツ本気だ。
「何犯そうとしてんだ!放せ!寝るっつってんだろ!」
「もう、うるさいなあ。こっちはその気になってんだから、ちょっと黙ってよ」
 そう言って口を口で塞がれた。
 その口の中が熱くて。とろけそうで。
 ああ本当にしたくてたまんねえだなぁって思ったらなんかおかしくなってきて。
「…わかったから。犯そうとするのはやめろ」
 めちゃくちゃ疲れてるけど付き合ってやるか、と思ってしまった自分は相当甘いと思う。
「その代わり、突っ込まれるのはヤダからな」
「仕方ないなあ」
 付き合うと言った途端コロッと態度を変える反町に、やっぱやめときゃよかった、と思ったがこれ以上渋ると後々面倒なことになりそうだからそこは堪える。
 離れてた唇がまた降ってきた。合わせるだけの軽いキスを何度も何度も繰り返す。
 それがなんだかこっちが焦らされてるような気がして。
 早くどろどろに溶けるようなキスをしたくて、自分より小さい背中に腕を回した。
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